慢性痛の分類とその対応について

2023.11.16 カテゴリー:

みなさんこんにちは、いつもみずの整骨院のホームページを見て頂きありがとうございます。

今年も残すところあと1ヶ月ほどとなりました。
最近ようやく秋らしくなり、朝晩の冷え込みも強くなってきました。
通院されている患者さんからは「寒くなってきて、以前の痛みがぶり返してきた」
というお話を伺うようになってきました。

治っていた痛みがぶり返すとはどういうことなのか?
不思議に思う事です。

今回は複雑な痛みの分類についてお話させていただきます。

そもそも痛みを言葉にするとどのような表現になるのか、

実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、
あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験
(国際疼痛学会IASP 2020年改訂より)

難しい言葉が出てきますが、イメージとしては体と心に起こる不快な体験という感じです。
そして痛みは急性痛、亜急性痛、慢性痛に分類されます。
急性痛は痛めた原因がはっきりしており、今現在生命が危険に晒されている事を報せる警告信号です。
亜急性痛は急性痛の段階は終わったがまだ慢性痛には至っていない時期の痛みです。
慢性痛は治療に要する時間を超えて持続する痛みであり、通常は発症から3ヶ月以上続く痛みと考えられています。

今回は最後に出てきた慢性痛について新たな分類とその特徴について説明していきます。
痛みの中には長く続いている慢性痛が存在しています。
おそらく最初は急性痛だったものが、亜急性となり治療法や管理が上手くいかず慢性化したものなのでしょう。
慢性痛で一番多い場所は腰(全体の55.7%)、次は肩(27.9%)です。
(日本における慢性疼痛保有者の実態調査Pain in Japan 2010 臨整外47 127-134より)

慢性痛は生起機序のうえから以下の3つに分類されます。
①侵害受容性(しんがいじゅようせい)の慢性疼痛
②神経障害性(しんけいしょうがいせい)の慢性疼痛
③痛覚変調性(つうかくへんちょうせい)の慢性疼痛

①は「侵害受容器の活性化に起因し、非神経組織の障害またはその恐れによって生ずる痛み」と定義されています。皮膚や筋肉、骨に炎症が存在し、感覚神経が長期に渡って刺激され続ける事によって痛みが慢性化した状態です。
代表的なものに、筋打撲、骨折、変形性関節症などです。
②は「体性感覚神経系の傷害や障害による痛み」と定義されています。
末梢神経や中枢神経が障害された後で痛みの増強や長期化が起きた場合を指します。
代表的な疾患は腰椎椎間板ヘルニア、脊髄損傷後の痛み、帯状疱疹後神経痛などです。
③は「侵害受容器の活性化や体性神経系の障害が見られない、痛覚の変化・変調によって生ずる痛み」と定義されています。
痛みの原因が侵害受容器や体性神経系に存在しないにも関わらず、全身の多領域に拡大する痛み。うつや睡眠障害、意欲・食欲の低下などを伴う事が多く、複雑な痛み方を呈します。
代表的な疾患は繊維筋痛症、複合性局所疼痛症候群、慢性腰痛等です。

①や②は以前から確認されている慢性痛ですが③痛覚変調性疼痛はそれとは違った痛みの考え方になります。まだなじみの薄い考え方ですが、近年この痛みで苦しまれている方が増えてきており、対策も講じられてきています。

痛覚変調性疼痛で分かってきたこと
・急性疼痛の治療法があまり効かない
・痛みを抑える脳の機能が破綻ないし低下している
・脳内の原始的な機能を担当する場所が興奮している
・負情動が亢進しマイナス思考が強くなっている
・治療法は薬物だけでなく瞑想や心のエクササイズが効果的
・腸と脳の関係が重要になっている

実際に痛覚変調性疼痛であると診断することは大変難しく、侵害受容性の疼痛や神経障害性の疼痛とオーバーラップしている事がほとんどだそうです。
とにかく痛みを長引かせないような治療や管理が大切になってきます。

効果的な治療法も出てきておりその一部を紹介していきます。
1・薬物療法
抗うつ薬
神経障害の慢性痛や痛覚変調性の慢性痛を軽減するのに用いられている。
主に快情動を活性化させるとともに、痛みを抑える機能(下行性疼痛抑制系)の活性化が期待できるものです。代表的なものが以下の通りです。

三環系抗うつ薬(ノルトリプチ)
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(デュロキセチン)
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(フルボキサミン)

2・認知行動療法 マインドフルネス
認知行動療法
慢性疼痛患者の負情動、ストレス、心理状態、破局的思考に焦点を当てて「心の持ち方」をポジティブな方向に変える手助けをする治療法です。
起源は米国の精神外科Beckによってうつ病の治療対策として始められたものです。
患者の誤った考え方やマイナス思考、後ろ向きな発言をその都度訂正していき、不安や恐怖を解消していく方法です。
一般論が存在しないので各個人に合わせた方法となります。
結果としてはその患者の健康な脳回路網に戻していくという流れです。

マインドフルネス
心のエクササイズともいう治療法で、脳の大規模回路網から、後悔、不安、恐れなど過剰な負情動を締め出し、ネガティブ思考を作らせない方法です。
具体的には瞑想に近い方法で、体の力を抜いて姿勢正しく座り、意識を自分の呼吸に集中して観察するだけです。「今を生きるありのままの自分」に気づかせ、後悔や不安などの過剰な負情動を締め出すことが狙いです。

3・筋運動
軽く身体を動かすことが、痛みを抑えるために必要だという事です。
特に骨格筋を適度に動かすことで、痛みを感じる神経がおさまり、痛みを抑える指令が脳から出るようになります。
この時注意してほしい事はアスリート並みの強い筋運動は必要ないという事です。
強い運動を続けた場合は筋肉から炎症性の物質が分泌されるほか、関節軟骨の摩耗や変形性関節症や疲労骨折を招きかねない事態になります。

痛みを抑えるためには軽い運動が効果的になります。
少し息が上がるくらいの持久的な運動から始め、自重レベルの負荷をかけたトレーニングで十分だそうです。時間にして30~40分くらいを目安に、適度に休憩を入れながら実施してください。
毎日やれなくても、週に2~3日を目標にすれば無理なく続ける事が出来ます。
継続していく事で脳をはじめ体内で慢性炎症を防止するような仕組みが再構築されていくそうです。

実際に当院でも治療が進み身体の痛みや姿勢に変化が見られ始めたら、運動をして頂くように指導させてもらっています。
姿勢を維持させるための抗重力筋や全身に酸素を送るために必要な呼吸筋、咀嚼や嚥下、発話を促す舌の運動など。
どれも簡単に出来て、そこまで疲れる事はありません。

今回は慢性痛に関して今現在分かっている事と、その対策について簡単にお話させて頂きました。
誰でも長く生きていれば何かしらの痛みに遭遇することはあると思いますが、早めの対処と長引かせない管理が大切です。

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

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